※本ブログでは同名の太宰治原作作品についてはこれでもかと触れない。
「いやぁ久々にこんなアニメ見ちゃったよ~」とニマニマしてしまう懐かしさは、おそらくは2014年公開の『楽園追放 -Expelled from Paradise-』以来だろう。
同じく3DCGアニメーションであり、内容は古き良き日本のSFであり、そして話としてはむしろ古臭ささえある、80年代後半~00年代前半に溢れ出ていたOVAアニメの様々を彷彿とさせる振り切った作品としての面白さを追求していた。
11月末公開であるこの作品は、恐ろしいほどに話題になっていないように見受けられる。うんしょうがない。そもそもの知名度が低い印象だ。いつの間にかひっそりとやっていると。
前述の『楽園追放』に関しては、脚本:虚淵玄というネームバリューが『魔法少女まどか☆マギカ』を経て超話題になっていた頃だったり、3DCGアニメに対して『蒼き鋼のアルペジオ』『シドニアの騎士』を経て期待が高まっていた頃合いだったため、一つのお祭り感が醸造されていたとさえ思っている。
ただ、今作はそういうわけでもない、いつの間にかひっそり公開されていて、いつの間にかひっそりと終わってしまいそうだ。
そういった哀愁まで含めて、この作品が好きになってしまうあたり、自分も大変にこじれているのだろう。
では……
○プロデューサーの発言:『AKIRA』や『攻殻機動隊』みたいなアニメを目指したい。
「おおっ! 大きく出たな! 言ってくれるじゃねぇか!」というのが、それを見た自分の第一声である。
あの伝説級のアニメ……というかその中でも、個人的には「センス・オブ・ワンダーに秀でた2本」を目指すとなれば、これはこれは難しいだろうと思っている。
……それは辛くも、時代背景がつきまとってくるのだ。
『AKIRA』の公開は1988年。そして『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』の公開は1995年。バリバリの20世紀。
SFというジャンルにおいては暗黒時代とさえ言われていながらも、しかしSFが持っていた夢そのものは全く霞んでいなかった時代だ。
しかし現代ともなると話は変わる。
Twitter上では「SFは滅んだ!」などという言説が飛び交い、現代に至るまで発展してきた技術が、それこそ耳にタコができるほど何度も「攻殻機動隊に出てきた技術が未来ではなくなった」と言われている。
そんな中、しかも2010年を超えた超・情報化社会において、「センス・オブ・ワンダー=何がなんだかよくわかんねぇ未知の領域に出会ってしまって圧倒されてしまう感動」を求めるのは非常に難しいだろう。
その衝撃に出会うには、今の時代はいろんなことを知りすぎることができて、同時に細かな感動は次々に薄れてしまうだろうと思っている。
そんな中でセンス・オブ・ワンダーをひねり出すのは相当難しいんじゃねぇかと思いつつ、しかし脚本:冲方丁ならばやってくれるんじゃねぇかと密かな期待を寄せつつつ見てみれば……
---以下、ネタバレ解禁---
○共感をさせてくるえげつなさは、センス・オブ・ワンダーから遠退く
さて『HUMAN LOST 人間失格』の世界観はとても面白い。公式トレーラーに出ている言葉さえ奇天烈だ。
「昭和111年」「年金1億円」「1日あたりの労働時間19時間」「平均寿命120歳」
医療革命によって確立された健康管理社会に対して、画面に映る人々はシニカルだ。スーツにガスマスクを被り、煙なのか靄なのかわからないがとにかく汚そうな空気の中をさも当然のように通勤している。
大気汚染が進んだ中で、ガスマスクをつけて普通に歩き回る人々……あー、なんだか、ありそう。と。
そして物語は、「人間合格式」という記念日に向けて様々な人間の思いが交錯する様を描いている。
人間合格式とは、それまでの医療で叶わなかった120歳という寿命を乗り越えた人たちが、それより先の人生を歩むための、一種の“卒業式”という区切りに親しいニュアンスだろうか。
物語中で出てくる、その合格式に出席する側の人々=老人たちは、これでもかとばかりに傲慢だ。
現役労働時代の人間を、露骨なまでに頭を垂れさせて、 「国民のため」「国のため」と言い放つ。
問題なのは、この「国民のため」「国のため」というものが、本当に何のためなのかを全く示唆されていないために、とにかく不安でしかないことだ。
1日に19時間働き、死にかけたら体内のナノマシンで半強制的に健康体へ戻されて、国のため国民のためというよくわからんもののために皆一様に、身を粉にする。
…この図式は、よく知っている。
今の世の中だ。「増えていく老人のために、若者たちが、才能があればあるほどに食い潰されている」という今の時代だ。
昭和111年という時代背景だからか、これも何度あるだろうか……
「お国のため!」「天皇バンザイ」と叫んでばかりいた太平洋戦争の狂気を持ってきているのだな、とさえ思えた。
だからこそ、この世界観が描くあまりに尖った現代風刺は、自分の身にも突き刺さる。それも嫌に痛々しく、そしてかなりの嫌悪感を伴って。
共感である。
だがその共感はしかし、よく見知ったものだ。目を背けたくなるほど、嫌というほど見てきた光景だ。
「なんだかよくわからんけどすげぇ」では、断じて、ないのだ。
……まあ「『AKIRA』や『攻殻機動隊』みたいなアニメを目指したい」のはわかるし、アニメーションとして、ポリゴン・ピクチュアズは非常に素晴らしいものを作っているし、ダークヒーローものという強烈な絵力は目を見張るインパクトを持っていることは、疑いようもないが。
○実際に「『AKIRA』や『攻殻機動隊』みたいなアニメを目指したい」を叶えたか?
センス・オブ・ワンダーという点においては、個人的には惜しくも失敗していると思っている。
何が足りていないのかといえば、「現代社会に対してロックンロールしていない」と答えざるを得ない。
現代社会をより尖らせた悪意として、とても上手に取り込んでいる。
残酷なまでに冷静に。
だからこそ惜しいと感じてしまうのだ。そんな世の中を見ていながら、しかしそんな社会のことを放っておいて退廃的な夢の世界を描こうぜ! という感じではないのだ。
それを受け手による膨大な考察で寄ってたかって、描かれていない面を浮き彫りにして、あるいはそんな風に読み取ってしまっていたからこそ、過去のそういった作品は現代風刺としての側面を強めていた。
それ含めて自分が言えるのは、冷静に世の中を見すぎていて、反旗を翻そうとしていないし、夢を見ようとしていない……だからこそ、「ロックンロールしていない」という言葉になってしまう。
……まあ、強いて、主人公がダークヒーローしているからこそ、その点でロックンロールしているという作為的なものが感じられる。
だから惜しいと感じてしまうのだが。
ちなみに、同じように残酷に冷静に現代を見ている作品として、個人的に挙げたいのは『攻殻機動隊 Solid State Society』と『<harmony/>』だ。
『攻殻SSS』では超少子高齢社会
『<harmony/>』では超医療先進・管理社会
どちらとも、『HUMAN LOST 人間失格』と近しい敵の描き方をしていると印象する。
『攻殻SSS』では、マジョリティーとなった高齢者側のエゴが幅を効かせ、
『<harmony/>』では、健康・管理社会となったからこその反旗を、主人公ではないもう一人の暗躍が話のウィークポイントとなっている。
ゆえに、この作品が決定的に他と違うのは、ダークヒーローものとして決着している点だろう。
○ダークヒーローとはなんぞや?
話は変わるけどさ! 『JOKER』面白かったですね!
『ダークナイト』のヒース・レジャーでやっていたジョーカー様とは違う、社会に揉まれて揉まれてどんどん摩耗していく、ホアキン・フェニックス演じるただの人間が、ついに狂気と悪へ落ちていく様が、痛々しくて!
……さてダークヒーローという言葉はよく聞くんだが、
『JOKER』や『ダークナイト』で描かれた、ジョーカーというキャラクターは、しかし個人的に、ダークヒーローとは言い難い。
『JOKER』で描かれる彼は、社会の抑圧から解放を切り開いてくれると信じられて象徴化された偶像だ。
社会に対して反旗を翻したきっかけではあるだろうが、しかし彼自身にそのつもりはなかった。彼は引き金ではあったものの、銃弾そのものではなかった。故に悪のカリスマでもなんでもなかった。
史実を持ってくるなら、むしろジャンヌ・ダルクのような御神輿に近いだろう。
『ダークナイト』では、本当に何を考えているかわからないからこそ怖い悪役であった。素晴らしいまでのヴィランであり……ヒーローではなかった。
では何がお前にとってのダークヒーローなのか? となるので答えておく。
「公的な正しさを持ち合わせず、しかし微かで独善的な希望のために戦う者」を指したい。
例えば『デビルマン』がそうだ。例えば『虐殺器官』のジョン・ポールがそうだ。『ガン×ソード』のヴァンもそうかもしれない。
「身近な人を守るために、他の誰かを殺める」という葛藤はヒーローに付き纏うが、ここを割り切った者でありながら、それを正しさと決して思わない者。
抑圧された社会への怒りからその糾弾のために戦う者。
復讐のために戦う者。
そんなところだろうか。
という意味では、本作の主人公は崇高な使命なんてものはないし、正義らしい正義もない。
ただ狂った世界観の社会に振り回されて、本人の紛糾という体裁と、青空という希望と呼び難いような動機を取りながら、その尻拭いを押し付けられているだけの存在だ。
そういう意味で、非常に素晴らしいダークヒーローだと思っている。
○総括して
いやおすすめなんだよ。そんなこんなを色々考えられるいい作品だと思うよ。
ただ、そのせいで、誰かに見てと声高に言えないのが難点でもあるのだが。
……『楽園追放 -Expelled from Paradise-』に関しては、ほら、アンジェラのケツとか、物語がわかりやすいとか、いろいろ語りやすいポイントがあったから……。